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こどもと家族の利用実態に基づく小児病棟プレイルーム改修に関する
検証的研究

2006




[財団法人 がんのこどもを守る会 研究助成報告書より]

研究成果

研究課題:『こどもと家族の利用実態に基づく小児病棟プレイルーム改修に関する検証的研究』
 聖路加国際病院小児病棟
        保育士 大野 尚子
         部長 細谷 亮太
  ナースマネージャー 吉川久美子
 立命館大学理工学部建築都市デザイン学科
         講師 山田あすか

1.研究の背景と目的
1.1 プレイルーム改修計画の実施とその背景
 聖路加国際病院(東京:1902年開院)は,小児病棟内にこどもが遊ぶスペース(以下,プレイルーム)を設置し,専属の保育士を配して,こどもと家族に生活と遊びの場を提供してきた.その後,疾患構成や年齢構成の変化や設えがこどもたちの利用の様相に即していないことなどからプレイルームの空間を再考する必要が生じた.他方,治療成績の向上に伴って,こどもに本来必要な諸機能の発達を保障するべく,治療・療養期間中にも生活や遊びを提供する意義が一層高まった.このため,使われ方の観察調査や設計者と病院スタッフのワークショップによって問題点や課題点,その解決方法について子細に検討を重ね,プレイルームの改修を実施した.

1.2 研究の目的
 本研究の目的は,以下3点である.
1)実地調査,課題点の整理,設計提案,改修後の調査分析による実効評価,を一つのサイクルとする計画研究の一事例を報告する
2)プレイルーム改修前後の使われ方を比較し,計画時に指摘した問題点が解消されプレイルームの設置目的が実現されているか,提案した空間が想定のように効果を挙げているか,の検証を行う
3)他院のプレイルーム事例を整理し,比較することで,今後のプレイルーム計画についての指針を得る

2.調査概要
2.1 聖路加国際病院小児病棟およびプレイルームの概要
 当該病棟は,病床数36の小児病棟である.家族は24時間の面会が可能で,付き添いの家族が多数訪れる.患児の入院期間,疾患,年齢には幅があり,またこうした年齢構成や疾患構成には時期によって変動がある.
 プレイルームは,小児病棟の入り口及びナースコーナーの近くに設置されている.プレイルームには,平日は保育士1名が常駐し,こどもたちの遊び相手,話し相手になっている.また,読み聞かせの会などのイベントが毎週数回開催され,活発な運営がなされている.
2.2 調査概要
 本研究では,こどもと付き添い家族の滞在様態と動線の調査,及びプレイルームの利用実態と評価に関するアンケート調査によって改修前後のプレイルームの利用実態を多角的に把握した.
 また,設立時期や理念の異なる4つの病院のプレイルームにおいてヒアリング調査と実地視察を行った.

3.改修前プレイルームの利用実態
 改修前のプレイルームの利用実態を終日の観察調査によって記録し,改修に際しての考慮点を示唆する場面を抽出した.
1)こどもの属性,活動の相手と内容
 プレイルームの主な利用者層は幼児とその保護者である.プレイルーム内では,保育士が主導する5人前後での制作活動や,ままごと・プラレール遊びなどプレイルームにおかれた玩具での1~3人程度での遊び,イベント時の大人数での活動などが見られる.特に幼児の遊びは,家族または看護師の付き添いのもとで展開することがほとんどである.しかし,付き添いの大人の滞在が考慮された設えがなされていないため,付き添いの大人は楽な姿勢をとれず,また安定的に「居る」ことが困難な状況である.
2)居合わせの様子
 プレイルームの中では,いくつかのグループが共存的に滞在することがある.しかし,「居られる」場所が少ないこと,畳コーナーの広さがニーズに対して充分でないことなどから,プレイルーム内に複数のグループが互いの活動を阻害せずに居合わせることは困難である.病気やけがでナイーブになっているこどもや家族がいること,こうした家族の中には必ずしも交流を望まない人々もいること,などに鑑みて,グループの数及び規模の選択可能性を保障する空間構成が望ましいと考えた.

4.課題抽出からコンセプト・ダイアグラム・平面提案に至る経緯
 観察調査とそれに先立つ設えの現状把握より,プレイルームの改修にあたって克服すべき課題点を挙げ,改修コンセプトを次の5つに整理した.
① 家庭的な雰囲気の創出:長期入院のこどもが多いという当該小児病棟の特性を重視し,「遊びの場」というハレの空間としてではなく,「遊びの背景」としてのケの空間を基調とし,家庭的でごく自然に居ることができ,落ち着ける空間とする.
② コーナー性の創出:静と動,年齢や個々の発達に応じた性格の異なるコーナーをつくり,様々な活動の展開を支援し,複数のグループの自然な居合わせを誘発する空間とする.
③ 思春期のこどもにとって居心地のよい場所の創出:年齢の高いこどもたちが過ごす場としての意味合いも重視し,学習やくつろぎの場を提供する.
④ 親子が一緒に過ごす空間の創出:家族が楽な姿勢で自然にこどもと一緒に過ごせる空間を創出する.
⑤ 家族にとって居心地のよい場の創出:こどもが遊んでいる間,休んでいる時間に家族が休憩や情報交換をできる場所としての意味合いも重視した設えとする.
 また,こどもの発達段階による身体寸法の相違などに配慮して基準となる寸法を設定し,改修計画を完成させた.

5.改修後のプレイルームの利用実態,及び改修前後の比較による改修提案の検証
5.1 プレイルームの利用実態の変化
 改修前調査と同様に終日の観察調査を行い,改修後のプレイルームの利用実態を把握した.
1)利用人数とこどもの属性,滞在様態
 平日の自由遊び時間の利用者数は改修前の約1.7倍,滞在時間の合計は1割程度の増,となり,利用様態もほぼコンセプト及び提案に沿った使われ方である.また,「家族のみ」の利用の割合が増加し,家族がこどもと一緒に滞在しやすい,また楽な姿勢でくつろいでいられる場所として使われていることが確認できた.また,滞在場所の選択肢が増えたことも影響し,複数のグループが同時に居合わせやすくなった.
2)滞在場所
 プレイルーム内にデッドスペースが少なくなり,限られた空間を有効に使うことができている.また,滞在場所の選択肢が増え,複数の場所で滞在が起こるようになっている.また,周囲の状況や他者との居合わせの状況による滞在場所の選択肢が創出された.
5.2 アンケート調査結果に見る改修の効果
 改修後アンケート調査の結果からは,「家庭的な雰囲気で病院でない空間と思える」,「親の居場所になっている」,といった改修のコンセプトが実現したことを示唆するコメントがある一方,「畳コーナーが好きなのでもっと広い方がよい」,といった,ある面では提案の成功による弊害が指摘された.全体に,家族の評価が高く,また家族が自然にこどもと一緒にいることができているため,こどもも遊び込めていることが観察された.プレイルームをこどものための空間としてのみならず,家族とこどもの空間,家族のための空間としても位置づけたことは,結果としてこどもにとっても居心地のいい空間と印象づける効果をもたらしている.

6.他病院プレイルームの比較によるプレイルームと院内保育の再考
 新旧4つの病院でのプレイルーム事例でのヒアリング調査と実地視察の結果から,今後のプレイルーム計画と,院内保育のあり方について考察する.
6.1 事例1:独立行政法人 国立病院機構西多賀病院
1)病院概要
 昭和9年(1934)に肺結核治療の専門病院として開院.その後,国立玉浦療養所との統合により,国立療養所西多賀病院となる.昭和39年にはわが国初めての筋ジストロフィー専門病棟が開設され,筋・神経医療センターとして全国の筋ジス医療のリーダーとして発展している.
2)入院児(者)の生活
入院病棟1階に配置された超重症心身障害児(者)の入院病棟では,ほとんどの患者が生活全般に全面的な介助を要し,長期入院も多い.療育スタッフ(保育士2名)は,こうした重度な機能障害をもつ患(児)の社会参加をはかるため,患児(者)の離床とともに社会参加を促し,心理的支援を実践していた.
3)プレイルームの現状
全体がL字型の広いフローリングフロアで,プレイルーム増築にあたっては温かみのある空間が提供できるよう検討された.
フロアのなかには,大型スクリーンやトランポリン,天井から据え付けられたブランコ,移動式の遊具など,スタッフの創意工夫によるコーナーがある.プレイルームは遊び,食事,更衣,サークル活動や親の会に利用されるなど,多機能である.また他病棟との兼用のために,活動内容が異なる場合は,L字型の形状を利用して活動を両立させている.
 療育スタッフの要望の一つとして車椅子を含めた収納スペースの拡張が挙がっている.他の場所に車いすの収納スペースがないこと,またマンパワーの側面から使う度に手間をかけてたたむことができないことなどから,現状でもフロアの1/4~1/3は収納コーナーとして占有され,活動コーナーが限定されている.

6.2 事例2:地方独立行政法人 宮城県立こども病院
1)病院概要
 2003年11月11日に開院.病院の理念に,こどもの権利の尊重,高度な専門知識と技術にささえられた,良質で安全な医療の提供を掲げている.病院の設立にあたっては,病院らしくない病院をイメージし設計が進められた.
2)入院児の生活とプレイルームの現状
 プレイルームは,4階病棟が37.62㎡・2/3階病棟が33.04㎡と広い空間が取られている.2~3階の床材はフローリングのみで,乳幼児の発達に環境を合わせるため,床マットを一部利用している.平日には常勤の保育士が各1名ずつ勤務している.病棟により特色はあるも,原則として食事や処置の一部が行われることはなく,学習の場となることはない.1日の利用人数は,おおよそ10名程度であり,地域性によるものか家族の付添い率が高く,患児と一緒に家族がプレイルームに付き添うことも多いという.なお,休日は保育士不在とも関係し,利用されないとのことであった.
各階のプレイルームが,中央の棚で窓側と入り口側でコーナーに分けられ,スタッフコーナーとあわせ,3つのコーナーで構成されており,スタッフコーナーは作業場所としての意味合いが強く,残る2コーナーが,実際の遊ぶ場所・休憩場所が混在した役割をになっている印象を受ける.いずれも,病棟の特色をいかした環境構成に工夫が見られるが,家具のしつらいや,玩具の収納に違いが見られ,利用者には少し違った空間に映るだろう.
 プレイルームでは,ハードの側面の問題として,2つのコーナーのしきりとなっている棚が死角を作ること,フローリングに床マットを敷くことで段差が生じていること,プレイルームの土足禁止設定による衛生管理への手間,こどもの活動場所と対応した電源の不足といった問題が起きている.

6.3 事例3:自治医科大学とちぎ子ども医療センター
1)病院概要
 地域の中心的医療施設としての機能の充実や高度化,多様化する医療ニーズに対応して行くため,2006年9月19日に自治医科大学とちぎ子ども医療センターとして開院した.病院の理念には,質の高い専門医療の提供,こどもと家族の支援,小児医療の人材育成が掲げられている.
2)入院児の生活とプレイルームの機能
 食堂・プレイコーナーを設置し,24時間利用可能としている.ドアはなくオープンで,スタッフステーションの対面にあり,どこからでもアプローチできる.プレイコーナーは,クッション材入り床として仕上げられている.近くにはテレビと絵本棚が設置され,廊下側入り口付近には収納棚がしつらえており,ビデオやデッキプレイヤーなどが並んでいる.玩具は管理上の問題から,プレイコーナーには置かれていない.各病棟には,2名の常勤保育士が勤務しており,平日と土曜日に2回/月午前中のみ出勤し,入院患児の保育活動にあたっている.食堂・プレイコーナーは,食事・おやつ・学習・保育(遊び)・家族との面会場所として利用されており,治療や処置が行われることはない.
 利用者は患児が中心で保護者単独の利用は少ない.利用時間の変動としては,AMは乳幼児PM学習時間,夕方からは乳幼児がく,一日を通して乳幼児を中心とした利用が多い.ただし,保育士不在の日は保育や学習時間の設定もないため,実際の利用はほとんどない.
 スタッフからは,電源の不足や,食事と遊びの場の分離,利用しない学童机の収納が困難なことが問題として挙げられている.

6.4 事例4:順天堂大学順天堂医院
1)病院概要
  2006年に,産科(周産期)小児科,小児外科の3科を中心に,母体および出生前から思春期に至るまでの幅広い年齢層の患者を対象とする小児科・小児外科・周産期母子メディカルセンター(母子医育支援センター)が開設された.
2)入院児の生活とプレイルームの現状
 小児外科病棟・小児科・混合病棟それぞれにプレイルームを有する.入院患児の遊ぶスペースあるいは発達を促す場として設置され,開放感を味わえるようなインテリアと,各種遊具・什器が置かれている.利用者の傾向として,0~7/8歳の利用が多く,同時に平均4~5人が利用(最大では,7~8人程度になる)する.2病棟には,平日にAM10~PM16までチャイルド・ライフ・スペシャリストが1名配置されている.小児科・混合病棟のプレイルームでは,毎朝,訪問学級の朝の会が行われているおり,時折,家族が休憩で利用することもある.それ以外は遊びを中心とした活動のために利用される.利用者はどちらの病棟も比較的付き添いが多く,利用の時間変動には大差はない.
 スタッフから,入り口に立つと左右に死角があることや学齢期患児を対象とした玩具が不足している点が問題に挙げられている.今後の要望としては,外気に触れる機会を設けること,床材の工夫,収納スペースを低い位置にも設置することが挙げられている.

6.5 プレイルームの比較
 4病院のプレイルームの視察から,以下のような課題点が浮かび上がった.
1) こどものためのスペースとして
・ 提供された空間・色彩イメージをこども自身が望んでいるのか
・ 設置された遊具や設えの寸法が実際の利用層の活動能力や身体寸法に即したものか
・ コーナーやコーナー同士の関係に利用者である患児の発達や予測される姿についての配慮がなされているか
・ 使用する素材や土足・上足の設定など,衛生や健康への配慮がなされているか,またそれが容易に実現できる計画であるか
・ 患児それぞれの心身の状況に配慮し,思わず手を伸ばし「触ってみたい」「遊んでみたい」という,気持ちを揺り起こすアフォーダンスが整った療育環境となっているか
2) 病棟の疾患構成や年齢構成,プレイルームの機能変更に対応できるフレキシビリティがあるか
3) 設備の観点から
・ 近年の医療器具に配慮した十分な電源が用意されているか
・ 十分な収納スペースが設けられているか
 一般的な,こどもの教育や福祉に関する公的機関は,おおよそその設置基準というものが明らかになっている.しかし,医療関係施設となると診療を前提とした設置が主体であり,小児科や一病棟のため,さらにはその一部である患児のための遊びやその他の機能を持たせた設置基準は存在しない.その為,対象者や病棟の特色をふまえたプレイルームあるいはプレイコーナーが様々に存在する.各施設がイメージとして持つ「よりよい入院環境」そのものが異なる.
政府は,2003年に発布した少子化社会対策基本法の中で,こどもの健康の支援として小児医療体制の充実をあげている.「医療機関において臨床心理士,保育士など小児医療を支援する職種の十分な確保」が明文化され,入院患児にとって生活を豊かにするために環境を精選する時期が訪れている.
 こうした動きの中で,いま一度入院患児にとってのプレイルームの機能について再考したい.患児の心と体の状況と,プレイルームや院内保育の利用状況を分析し,小児病棟やプレイルームの設置基準を見出すことが今後の課題である.命題に掲げるべきは,患児が安心して生活できる場であり,遊ぶという行為に没頭し充実感を味わいながら,友達や専門スタッフとの仲で互いの信頼関係を深め家族に見守られながら心身ともに成長していける環境を提供することであろう.

7.本研究の成果
 以上,本稿においては実際のプレイルーム改修プロジェクトの経緯に沿って実地調査からコンセプトおよび空間ダイアグラムの整理,設計提案,事後調査による計画案の検証,というプロセスを整理すると同時に,計画実施後の使われ方の実態について評価を行った.また,他病院のプレイルーム視察から,今後のプレイルーム計画についての指針を得た.
 こうした知見の蓄積により,当該病院のプレイルーム改修の効果のみならず,広く医療をバックアップするこどもとその家族の療養生活環境の在り方の効果に迫る知見が得られると考える.

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