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【科研】患児・家族・医療看護の視点による
  成長・発達の場としての 小児療養環境評価基準の作成

2009-


科研費


[平成21年度研究実績の概要:国立情報学研究所データベースに同じ]
 中長期の入院・通院生活を送るこどものための療養環境を,こどもや家族の視点に立って構築することは喫緊の課題である.本研究では,長期の加療を必要とする小児医療を実施する小児病院,小児病棟において,観察調査やアンケート調査,インタビュー調査等によって,患児本人,付添家族,病院スタッフの視点から,小児の療養環境を評価する基準を導出する.またこの基準をもとに,全国の小児に関わる医療機関にアンケート調査を行い,この基準の検証を行うことを目的とする.本研究の成果は,病院関係者への療養環境への意識と理解を深め,療養環境構築手法や理念の複数医療機関や他職種間での共有,小児の療養環境の向上に寄与するものと考える.
 本年度は,地域や患児の病態・属性が異なる3つの病院において,患児本人・家族・スタッフへのアンケート調査,キャプション評価法による環境評価調査,ラダーリング・インタビュー調査,観察調査を行った.この結果を基に,上記の調査結果をもとに,患児と家族の病棟・病院での生活実態や異なる視点からの環境への評価の実態を把握した.また患児の病種・病態・入院期間・性別・年齢等の属性や家族の付添状況と評価の関係,評価対象と評価・評価語の関係,環境評価の構造などについて分析し,また療養環境として求められる事柄や性能を探った.
 この成果を元に,患児,家族,スタッフそれぞれの評価軸によって環境を評価する基準を試論として示しており,次年度にはこの評価項目の検証と実地の環境改善実践を行うことを予定している.

 

[平成22年度研究実績の概要:国立情報学研究所データベースに同じ]

 中期の入院・通院生活を送るこどものための療養環境を,こどもや家族の視点に立って構築することは喫緊の課題である.本研究では,長期の加療を必要とする小児医療を実施する小児病院,小児病棟において,観察調査やアンケート調査,インタビュー調査等によって,患児本人,付添家族,病院スタッフの視点から,小児の療養環境を評価する基準を導出する.またこの基準をもとに,全国の小児に関わる医療機関にアンケート調査を行い,この基準の検証を行うことを目的とする.本研究の成果は,病院関係者への療養環境への意識と理解を深め,療養環境構築に関する手法や理念を複数医療機関や他職種間で共有することや,小児の療養環境の向上に寄与するものと考える.

 本年度は,昨年度の調査研究成果の発表およびこの成果に基づく全国アンケート調査の準備を進めた.また,研究成果を活かした療養環境の提案をある病院の改築を期に行った.さらに,病態が異なることで必要とされる療養環境が異なることを念頭におき,開放/閉鎖,外部空間の条件等の療養環境が異なる3つの児童精神科病棟において,スタッフへのアンケート調査,キャプション評価法による環境評価調査,ラダーリング・インタビュー調査,観察調査を行った.この結果を基に,病態や入院加療の内容や目的が異なる小児病棟における環境への評価の実態を把握し,患児の病種・病態・入院期間・性別・年齢等の属性による,環境評価の対象や評価の視点,環境評価の構造などについて分析し,それらを踏まえて療養環境として求められる事柄や性能を探った.この成果を元に,児童精神科病棟での環境評価項目を試論として示した.

 次年度には,これらの評価項目および実地の環境改善実践の検証を行うことを予定している.

 

[平成23年度研究実績の概要:国立情報学研究所データベースに同じ]

 中長期の入院生活を送るこどものための療養環境を,こどもや家族の視点に立って構築することは喫緊の課題である.本研究では,中長期の加療を要する小児医療を提供する小児病院と小児病棟において,患児本人と付添家族,病院スタッフの視点から,小児の療養環境を入院生活の側面から評価する基準となる項目を導出し,その検証を経ての環境づくりの提言を目的とする.本年度の研究成果の概要は以下の通りである.

  1. 中長期の加療を行う小児病棟において,患児本人と付添家族,関係スタッフに対する観察調査やアンケート調査,インタビュー調査等を行い,療養環境に求められることがらを評価項目として整理してきた.本年度はこの基準をもとに,全国の小児病院と小児病棟を対象に療養環境の実態と環境への評価を問うアンケート調査を行い,評価項目の検証を行った.
  2. 病態が異なることで必要とされる療養環境が異なることを念頭におき,開放/閉鎖,外部空間の条件等の療養環境が異なる3つの児童精神科病棟において,スタッフへのアンケート調査,キャプション評価法による環境評価調査,ラダーリング・インタビュー調査,観察調査を行った.この結果に基づき,病態や患児の年齢に応じて環境に求められることがらを整理し,療養環境の構築に際しての理念から具体的な環境のあり方に至る環境づくりの構造を含む環境評価項目を示した.
  3. 本研究の成果を活かし,小児病棟の改修事例に対して病棟プレイルームの計画に参画し,環境づくりの実践を行った.またその効果をPOE研究によって確認した.
  4. これらの結果を踏まえて小児の療養環境における環境づくりの理念から具体的な環境のあり方の工夫や提言に至る構造を視覚化して伝える表現方法を開発した.

 本研究の成果は,病院関係者への療養環境への意識と理解を深め,療養環境構築に関する手法や理念を複数医療機関や他職種間で共有することや,小児の療養環境の向上に寄与するものと考える.

 

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[研究全体の成果概要]

研究分野:工学

科研費の分科・細目:建築学 ・ 都市計画・建築計画(5303)

キーワード:小児療養環境,成長・発達,生活,環境への評価,環境評価基準

 

 

1. 研究開始当初の背景

 近年,小児医療の分野では心疾患や悪性腫瘍等の難治性疾患の治療成績が伸び,病気や障がいを抱えながらも社会に戻るこどもたちが増えている。このため,特に中長期入院が必要な病気の治療を行う病院は,治療の場としてだけではなく退院後にスムーズに日常生活に戻れるよう,またQOLの観点からも,心身の成長・発達の場としても整えられる必要性が増している。

 これまで小児の療養環境は,長期にわたる入院を支える生活の場としてよりも短期入院児に焦点を当てた遊び環境としての配慮や病棟のインテリアデザインが議論されることが多く文1~4),生活や成長発達の場としての療養環境は充分に考えられていなかった。また,こどもが入院する際には日中・夜間に家族が付き添うことが常態であるにもかかわらず,付添家族の存在は充分に考慮されておらず,患児と家族の療養環境の実態は充分に把握・考慮されていない。さらに根本的な問題として,小児病棟/病院には施設基準がなく,病院・病棟ごとの治療方針・スタッフ配置・患児/付添家族像などの特性に即して,「どのような環境が良い環境なのか」という基準が共有されていないという課題があった。川口文5)は環境看護学の必要性を説いており,具体的にどのような環境を提供すべきかや,望ましい環境についての知識や意識をいかに共有するかについて深化させた研究が望まれる。

1)浦添綾子,仙田満,他:あそび環境よりみた小児専門病院病棟の建築計画に関する基礎的研究,日本建築学会計画系論文集 NO.535 P.99 2000.9

2)浦添綾子,仙田満,他:あそび環境よりみた小児専門病院病棟におけるプレイルームの建築計画に関する研究,日本建築学会計画系論文集 NO.550 P.143 2001.12

3)仲綾子,仙田満,他:入院児のあそび環境意識調査にもとづく小児専門病院病棟の建築計画に関する研究,日本建築学会計画系論文集 NO.561 P.113 2002.11

4)鈴木賢一,岡庭純子:小児病棟における壁面装飾の印象と効果に関する研究,日本建築学会計画系論文集 NO.625 P.511 2008.3

5)川口孝泰:看護における環境調整技術のエビデンス,臨床看護 臨時増刊号,へるす出版,2003.11

 

 

2. 研究の目的

 本研究では,中長期の加療を要する小児医療を提供する小児病院と小児病棟において,患児本人と付添家族,病院スタッフの視点から小児の療養環境を評価する基準となる項目を導出し,その検証を経て環境づくりの提言を行うことを目的とする。

 本研究の成果は,病院関係者への療養環境への意識と理解を深め,療養環境構築手法や理念の複数医療機関や他職種間での共有,小児の療養環境の向上に寄与すると考える.

 

 3. 研究の方法 

1)療養環境評価項目の作成

 まず,長期の加療を必要とする高度医療を提供する小児病棟3事例(地方中核病院,地方の都市部にある地域医療中核病院,都内総合病院)を対象として,こどもと家族の過ごし方の実態と,現在の環境への評価とニーズを調べる観察調査,アンケート調査,キャプション評価法調査,インタビュー調査を行った。これらの調査結果をもとに,環境づくりに際して考慮すべきことがらと環境へのニーズを療養環境評価項目としてまとめた。

 また,長期の入院加療を行う児童精神科病棟3例(関東圏で,対象年齢層が異なるように選定)においても同様の調査を行い,環境評価の構造と環境へのニーズを整理した。

2)療養環境評価項目の検証

 1)の評価項目をもとに,全国の小児に関わる医療機関を対象とするアンケート調査を行い,療養環境の実態と,環境への評価を把握し,評価項目の検証を行った。

3)環境づくりの実践と検証

 1)の調査対象とした小児病棟1例にて,病棟の改築に参加し病棟プレイルームを中心に環境づくりの実践を行った。また従前・従後の使われ方と患児・家族・スタッフからの評価を比較し,環境づくりの検証を行った。

 

 

4.研究成果 

1)小児療養環境評価項目の作成

 中長期の入院生活を伴う高度医療を提供する3つの小児病棟において,患児,付添家族,病棟スタッフを対象に生活の様子や病棟を中心とした病院の環境の利用実態と評価を調べる一連の調査を行った(3.1))。

■評価の構造

 被験者が環境構成要素をピックアップして評価を行うキャプション評価法調査の結果を原刺激として,評価の理由と具体的な要望を評価の構造として聞き取るラダーリングインタビュー調査を行い,属性ごとに評価構造を整理した。この結果,評価構造の核は属性によって異なるものの,生活のしやすさや交流・遊びなどの生活の充実が治療への意欲に繋がり,ひいては治療や看護に貢献するという構造が属性によらず共通していることが明らかになった。

■環境への評価の実態

 環境評価構造をもとに,キャプション調査による環境への評価コメントを,評価の[対象・理由]と属性によって整理した(図1)。

医師  評価[対象]は病室,スタッフステーション,廊下,ロビー等病棟内外にわたり,病院全体への関心が高い.[理由]には「処置しやすさ,生活の意味づけやなじみ,快/不快」が多く,働きやすさと前向きな気持ちを持てることが主な評価形成要因と言える.

看護師  [対象]の大半が病棟内の環境要素で,病棟内への意識が強い.[理由]は「安全・衛生,負担感,前向きな気持ち」が多く,自身の精神面の充実を重視する傾向がある.

付添家族  病室や廊下,水周り,ロビーなど病棟内での生活圏での安全や広さへの関心が高いと言える.また「余暇活動,快/不快」が特に多く,生活が退屈でなく落ち着いていることを求める傾向が読み取れる.

患児  [対象]の大半が,主な生活圏である病棟プレイルーム,廊下,病室にある.[理由]には「生活の意味づけやなじみ,余暇活動,快/不快,好奇心」が多く,生活の手がかりや刺激,安らぎが重要と言える.

■環境評価項目の導出

 一連の調査と分析に基づき,療養環境に求められる事柄を抽出し,場所・対象と属性別に整理した(図2).患児では生活への楽しみを保障する環境づくり,付添家族では生活や看護のしやすさと,家族同士やスタッフとの交流による関係構築を助ける環境づくりが求められる.看護師では看護のしやすさや安全・衛生の管理面で環境評価項目が多い.医師では,治療しやすい室や機器の整備とともに,家族や患児同士での交流がありそれを観察できることが環境の評価項目となっている.

 

2)環境評価項目の検証

 以上で導出した評価項目をもとに,全国の小児病院と小児病棟を対象に療養環境の実態と環境への評価を問うアンケート調査を行った。この結果をもとに,環境評価項目による評価(環境構成要素の有無や要素への満足度)と,場所ごとの総合評価の相関を分析した。各項目の環境評価への寄与率は,この相関が高い場合に高いと考えられる。同時に,明らかに重要な項目であっても相関が低い場合には,環境評価の軸そのものが評価者に適切に意識されていない可能性を示唆する。

 総じて,こども病院では,患児・家族・看護師・医師とも病室関連の項目と病室への総合評価の相関比が高いが,プレイルームでは相関比が低い。つまり,病室がどうあるべきかは意識されているが,プレイルームがどうあればよいか認識されていない。一方小児病棟は面会室を除き全体に相関比が低いことから,小児病棟は環境全般のあり方の認識と環境評価が結びついていないと言える。

 その他場所別の主要な知見では,[病室面積]等は総合評価との相関比が高いがいずれも評価は低く,面積不足が示唆される。[生活物品の収納スペース]も不足しており医療・生活面とも環境評価は低い。また病室備え付けの家具の有無と総合評価との相関が低く,スタッフが病室の家具と環境の質を関連づけて捉えていないと言える。廊下の印象には積極的な評価が少なく関心が低い。また廊下幅が狭いと評価されている。プレイルームは[患児の見守り可能な家族のスペース,複数の患児が遊ぶスペース]は特に相関が高く,重要な項目と認識されている。面会室は相関比が高く,面会や病状説明等のためのスペースがあることが評価されている。

 この検証により,評価者の療養環境への意識の低さも明らかになった。小児療養環境はどのような姿が望ましいか,また環境づくりの選択肢や工夫の方法を現場に伝えること必要があると分かった。

 

3)児童精神科病棟での療養環境評価項目

 近年児童精神疾患の問題が肥大しているため,当初計画に加えて児童精神科病棟を対象としてその環境評価項目を整理した。

 必要な療養環境に影響する病態の差異を踏まえ,開放/閉鎖,外部空間の条件等の環境が異なる3つの児童精神科病棟において,1)と同じ一連の調査を行った。この結果を基に,療養環境の構築に際しての理念から具体的な環境のあり方に至る環境づくりの構造を含む環境評価項目を示した(図3)。

 

4)環境づくりの実践と検証

 本研究の成果を活かし,小児病棟の改修事例に対して病棟プレイルームの計画に参画し,環境づくりの実践を行った。またその効果をPOE研究によって確認した。この実践と検証は,現場と環境づくりの意義や価値,方法を共有する試みであった(写真)。

 

5)環境づくりの構造の図化表現

 以上の成果をもとに,環境づくりの理念から具体的な環境のあり方の工夫や提言に至る構造を視覚化して伝える表現方法を開発した(図4)。これは,環境づくりへの興味関心を喚起し,また環境づくりにおける意志決定のフェーズ及び関連する職種の多段階性を踏まえて実効を高めたと考える。また現在,スタッフの入れ替わりが常態である病院の現場に随時,また継続的に適切な情報を届けられるよう,websiteを通じ発信を行う,本研究の後継プロジェクトに取り組んでいる。

 

 

5.主な発表論文等

(研究代表者、研究分担者及び連携研究者には下線)

〔雑誌論文〕(計1件)

① 山田あすか,村川真紀:児童精神科病棟における療養のための環境づくり指標に関する研究 −児童精神科病棟の療養環境の向上のための研究 その1,日本建築学会計画系論文集,査読有,第77巻674号,pp.749-758,2012.04

 

〔学会発表〕(計9件)

① 松田優,今村隆人,山田あすか,古賀誉章:医療スタッフ・付添家族・患児らの印象・利用度と滞在様態からみた環境評価の実態,日本建築学会大会学術講演梗概集 E-1分冊,2010,p.237

② 今村隆人,松田優,山田あすか,古賀誉章:医療スタッフと付き添い家族による環境評価構造の分析と環境評価項目の導出,日本建築学会大会学術講演梗概集 E-1分冊,2010,E-1分冊,p.239

③ 村川真紀,山田あすか:児童精神科病棟における療養環境評価基準に関する研究,日本建築学会大会学術講演,2011.08.23

④  Hiroki Ito, Asuka Yamada, Eiji Satoh : Evaluation on the Environment Transition Associated with Renovation in the T Hospital Children’s Ward and Verification of Playroom Design Proposal,The 43nd APACPH(Asia-Pacific Academic Consortium For Public Health) Conference, 2011.10.21, Yonsei University, Seoul, Korea

⑤  Saori Chiba, Asuka Yamada, Takaaki Koga : Verification of a Basic Guideline Based on the Current Condition Survey of the Children’s Ward Environment, The 43nd APACPH Conference, 2011.10.21, Yonsei University, Seoul, Korea

⑥  Masayoshi KOGA, Asuka YAMADA, et al.: A Report for Utilization of the Children's Ward in K Local Cadre Hospital, The 43nd APACPH Conference, 2011.10.21, Yonsei University, Seoul, Korea

⑦  Asuka YAMADA, Masayoshi KOGA, et al.: A Report for Utilization of the Children's Ward in K Local Cadre Hospital, The 43nd APACPH Conference, 2011.10.21, Yonsei University, Seoul, Korea

⑧ 千葉紗央里,山田あすか,古賀誉章:小児療養環境の実態に基づく環境評価項目の検証,日本建築学会大会学術講演,2012.09

⑨ 伊藤弘紀,山田あすか:T病院小児病棟の改築に伴う環境移行の評価とプレイルーム計画提案の検証,日本建築学会大会学術講演,2012.09



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